2013年7月12日金曜日

PCの音が出なくなったら・・・


PCにトラブルが発生した時に、まずネットで類似事象を検索する。
自分の場合と同じケースが見つかれば、かなりの確率でトラブルから脱出できる。まさに地獄で仏の気分になる。
いままでに何度かそうして救われたことがある。

その作者とは一期一会の間柄だが、感謝するとともに、自分自身そういう記録を残しておこうと思う。いつの日か、それを見て救われる人がいるかもしれない。

ということで、昨夜のトラブルを書いておく。

まとめてしまえば単純なことで、方法さえわかっていれば、ほんの10分ほどで復旧できるトラブルだ。
しかし、方法を知らない者は、泥沼に落ちたような気分で長い時間PCで格闘することを余儀なくされる。昨夜は、まさにそんな夜だった。


私は、G DATAというアンチウィルスソフトを使っているが、昨夜<ふるまい検知>によって<未知の脅威>としてあるファイルがひっかかった。隔離を推奨されたので、何も考えずにそのファイルを隔離した。

その後からである、PCのすべての音が出なくなったのは。

ログで調べると<audiodg.exe>を隔離したという。さっそく、そのファイルを元に戻そうとしたのだが、その方法を調べるためにネットでG DATAのマニュアルを調べなければならなかった。隔離ファイルを元に戻すことを想定していないのだ。ここまでにかなりの時間がかかった。

ところが、隔離ファイルを元に戻しても音は出ない。


あれこれネットで調べて、PCの音がでない場合の処置をできる範囲でやってみたが効果なし。

そこで、PCの復旧にとりかかった。満を持して行なった復旧だが、原因不明のエラーが出て復旧ができない。


ここまでに2時間ぐらいかかっていただろう。熱帯夜の夜である、うんざりするには十分すぎる時間だ。

ネットで似たような症状をさがしたが、見つからない。しかし、<audiodg.exe>がないと音が出なくなるらしいということはわかった。

ふと本当にG DATAが<audiodg.exe>を元に戻しているのかという疑問が湧いてきたので、調べてみたらそれらしきものがない!灯台下暗しである。

ネットで<audiodg.exe>をDLしようとしたがうまくいかない。(変なソフトと抱き合わせのサイトがあったが、不安だったので試みなかった。たいてい、さらに泥沼にはまり込む)

G DATAが間違った場所に<audiodg.exe>を戻してるのではないかと、PC内を検索すると同名のファイルが2つあった。ひとつは英語用、ひとつは日本語用。(日本語用は、C:\windows\winsysにあった。元々そこにあったのだろう)

日本語用の<audiodg.exe>を<windows\system32>にコピーすると、なんのことはない、すぐに音が出た!


結果が出でみれば、まさになんのこともないトラブルである。

それは地図を持たずに道に迷ったようなものだ。地図さえあれば、すぐに分かる場所に行きつけなくて迷い続けていただけの話だろう。

同じように迷う人がいるとはあまり思えないが、そんな人がいればこの記事はささやかな略図になるだろう。


教訓: ちょっと待て!そのクリックがトラブルの元。

2013年7月1日月曜日

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」メモ(2)


<誰がシロを殺したのだろうかということについてのメモ>


5人が護らなければならなかった<聖なるもの>とはなんだろうか。

いや、5人ではなく4人がというべきだろう。つくるが抜けたから4人ではなく、もともとが4人なのである。アカ、アオ、クロ、そしてつくるの4人。

とすれば、護らなければいけないのは、シロその人ということになる。クロが、シロは白雪姫であり、残りのメンバーは七人の小人だと言っていたのもあながち間違いではない。ただ、そのシロは残りの4人がいるから存在しえるシロである。

おそらく、シロという人格は4人の人格の相互作用によって、作中の語を借りれば<ケミストリー>的に発生したものであり、その一人でも欠けた時に変質・変容する運命にあったのだろう。そういう意味で、つくるの<逃亡>はシロを人格的に損なうことになってしまったといえる。

つくるはなぜその幸福な聖なる共同体から逃げ出したのだろうか。もちろん、表向きの理由は駅を作りたいという彼の強い願望である。彼の夢を実現するためには、どうしても東京のある大学で学ばなければいけなかったのである。しかし、意図というのは往々にして多層的であり、別の深層では、彼はその共同体から逃げ出したかったのである。

彼の淫夢が象徴しているように、つくるはシロとクロに性的に惹かれていた。そのエロスは暴力的であり、創造的である。エロスの両面をシロとクロが体現している。シロの肉体はつくるの暴力によって破壊されるべきものであり、クロの肉体は創造の可能性として存在するものである。

つくるは、シロが指摘しているように、明らかに分裂していた。ひとつは何かを創りだそうとするつくるであり、ひとつは暴力的に破壊するつくるである。おそらく、グループの中で亢進してきたつくるは後者であり、その発現を恐れてつくるは名古屋を離れたのである。

それは、シロではなくクロを選ぶ道だったはずだ(本人は自覚していないだろうが)。創造の道をつくるは選んだのである。つくるが共同体を出て、おだやかに共同体が解体し、やがてクロとの個人的な関係が深まっていくというのが幸福なストーリーだったはずだ。

その流れを徹底的に破壊したのが、シロである。

つくるが東京に逃げたことは、シロにとって二重の脅威であった。つくるだけではなく、クロまでが自分自身から奪われるだろうという恐怖を彼女は感じた。そして、裏切り者のつくるを断ち切るだけではなく、グループに二度と接近できぬようにして、クロとの間も完全に分断したのである。

そうしなければ、自分自身が生き延びることができないということをシロは知っていたから。

東京のつくるの部屋でつくるにレイプされたというのは、つくるの中に潜んでいた暴力的な人格をシロが読み取ったものであり、同時に、クロの願望(もちろんレイプではない)を先取りして、その可能性を打ち砕いたものである。

そのレイプがどういうものであったにせよ、シロはつくるの暴力的なもの(つくるには表と裏とあるとシロは言っていた)を自分の人格の中に取り込んだのである。つくるが捨て去ろうとした人格(いわば悪霊的なもの)がシロにのり移ったと見ることができる。

その話にクロは半信半疑だったのだろうが、話の迫真性、身体的証拠、そして仲間からの傍証によって、クロはそれをひとまずは受け入れざるを得なかったのであろう。また、シロの人格的な混乱をなんとか修復させなければという使命感もあったのだろう。クロはつくるへの思いを断ち切ったのである。

つくるを切ることによって残りのメンバーの再結束を図ろうとしたシロだが、もともとがつくるも含めて4人で作り上げていたシロの人格は、すでに壊れ始めていた。あるいは、つくるがシロの人格を成立させる上で必要不可欠な役割を果たしていたのかもしれない。

シロの人格は急速に壊れだしていく。アオもアカもしだいにシロでなくなったシロから離れていく。ひとり、シロの面倒をみるのはクロだけという状況になっていく。

壊れ続けるシロの人格は、クロの存在だけで何とか形骸をとどめているようになる。

やがて、そのような関係にクロが消耗し、耐えられなくなってきたところに、フィンランドからやって来たハアタイネンとの出会いがあり、彼がその出口のない状況から彼女を救い出すのである。彼は陶芸家であり、つくると同じく何かを作り出す人ということで共通点があり、おそらくクロは彼とつくると重ねあわせながら愛したのであろう。

彼らは結婚してフィンランドへ移る。その後すぐにシロは浜松に引っ越して、クロの出産のときに何者かに絞殺される。これらの出来事は偶然ではあるまい。

ハアタイネンは、シロとクロの関係の危険性を知り、クロを遠くフィンランドの地に連れて帰ったのであろう。ふたりがこのまま出口の見えぬ関係を続けているとシロだけではなく、クロも危険だと感じ取ったのであろう。おそらく、すでにシロとクロは(文字通り)相互依存のような関係に陥っていたのだろう。

シロが比較的安定の得られる名古屋を離れ浜松に移ったのはクロへのメッセージである。クロがいなければ、シロもその肉体も長くはこの世にいないだろうということをクロに告げているのである。


ところで、シロが殺される前にアカが浜松で彼女に遭っている。

アカはそのことをつくるに話しているのだが、その印象はかつてのシロのような輝きのない、彼の言葉を借りれば<美しくない>女にすぎなくなっていたという。つまり、アカにとってのシロはすでに死んでいたのである。言いかえれば、シロは、アカの前に現れることはなく、アカの前にいるのは白根柚木というふつうの女性だったのである。

シロと呼ばれた人格は、その白根柚木という女性の中で瀕死の状態で生き続けていた。ひたすらクロが現れるのを待ちながら。


シロとクロは最後にどのような関係にあったのだろうか。性的な関係にあったのかもしれない。シロは男性に関心を持たないというクロの確信もそこから来ているのかもしれない。しかし、それはどちらでもいいことであり、要はシロはクロの存在がなければ存在しえない状態にあり、クロもそれを知っていたということである。

つまり、クロは自分が日本を離れることでシロという人格が完全に死んでしまうことを予想していたのである。だからこそ、彼女は自分の娘にシロの名を継がせたのである。シロではなく、ユズという。