2012年7月31日火曜日

素性

淡々と己の素性を問はるるにみぬちに怒りのごときをおぼゆ

かすみさう

かすみさう君と分けしがその強きかほりはつひに寄す処となりぬ

2012年7月28日土曜日

心の闇

もうよさう心の闇と云ふ物語<心理>ではなく<反応>を語れ

李徴のやうに

俺もまた李徴のやうに君に告ぐこの人格はやがて死すと

最後は

いづれにしても最後はさうなるさうするかさうなるだけかの違ひにすぎぬ

夏の睡魔

こんなにもつぎからつぎへとわいてくるため息ではなく夏のあくびは


風見鶏

吹く風の止まると見れば風見鶏飛ぶか落ちるか地球を提げて


凌霄花

暑さゆゑ昼天動くは人ならず凌霄花に蟻せはしなく


2012年7月26日木曜日

分別

いつどこで失つたのか身のかるさ分別などは一種の肥満さ


酒盛り

女発ちその空席はそのままに男らふたたび己が酒飲む

2012年7月25日水曜日

別名

時来ればかの人の名字名乗らうと決めしその名で生くるもありや


すつぴんの人

すつぴんの人の面貌みなれしや わが面(つら)のごとくかなしくも見ゆ


2012年7月24日火曜日

ダークナイト

ひたぶるの<ナイト>を嗤ふ<ジョーカー>に<笑ふナイト>などあらばやともふ


別れの夏

昨夏は友らが去りぬこの夏は恋人去るめり よく寝よ息子

水風呂

一対の尻が降り来る水風呂の我の横手に淑女のごとく

2012年7月23日月曜日

最愛の人

最愛の人を見捨てて戦乱を逃れし夢見き その人知らずも


夏休み電話相談室

ラジオから舌足らずの子のカガク・ソーダン聞こえてまさしく夏休みかな


霧雨の夜道

霧雨にけぶる夜道に自転車のライトは逸らしてすれちがひゆく

2012年7月22日日曜日

光の車窓

夜をゆく電車明々(あかあか)内部(うち)さらし押絵のやうな人々が過ぐ


2012年7月19日木曜日

へくそかづら

やいとばなへくそかづらにくそかづら しかして茶席の早乙女かづら


高校野球実況中継

めづらしとおもふ 女声の高からぬ高校野球実況中継

2012年7月18日水曜日

くまぜみ

ちかごろは湘南あたりもくまぜみが鳴くとふ しやあしやあ西の夏


去年の蝉

さういへば去年は蝉がいつまでも鳴かず地変の余波などと言ひき

初蝉といふか

ぢぢと鳴きそのまま黙ししあの蝉はけふは鳴けるや恋せよ男子

2012年7月17日火曜日

夏夕べ

うだる夏の一日も終るこの夕べ微酔のままに「葡萄木立」読む

男の愉悦

ある人のいふやう男は写すことを愉悦とするとふ 歌人も変態も

2012年7月16日月曜日

熊谷直実

弓矢丸直実汗して習ひしや熊谷けふも猛暑日といふ


合歓の花

はたと知る色気のやうにいつも知る 葉かげの合歓のうす紅のいろ


エゴノネコアシ

エゴノキの虫こぶエゴノネコアシにはエゴノネコアシアブラムシ棲む

ひたぶるのかなぶん

ひたぶるのかなぶん樹液に身をおつ立て可笑しきまでの忘我にありぬ


2012年7月15日日曜日

ささやかな至福

人の身のささやかなれど至福なる一時 夏の夜風に恋ふるは

ヒツグス粒子2

よい風にをみなら軽やかほんの少しヒツグス粒子を失ひしやも

ヒツグス粒子

ヒツグス粒子は我らに纏はる天使とか うべ死に際は光の見ゆる


2012年7月13日金曜日

昔の歌

深夜ラジオの昔の歌に目瞑りぬ人の最期も耳だけだとか

おやすみ

おやすみと誰に言おうかあなたへの一本の糸 電網にありや

2012年7月12日木曜日

老いの手

手の老いは隠さふべしやきれいな手と誉めし義母なくその手も又なく

2012年7月10日火曜日

夏の孤愁

空よりも儚き予感に身震いて今朝より始まる夏の孤愁


2012年7月8日日曜日

蚯蚓

いつぴきの蚯蚓まつすぐ這ひ来たり上げたる足の置き場に迷ふ

七夕の雨

銀河など夢のまた夢 微小なる蟻に生まれて七夕の雨


書架の本

数十の図書分類で事足らん我が書架の本 わがペルソナなど


2012年7月1日日曜日

長寿の福音

医師達が教祖のごとく福音を説く 長生きなどが救ひとなる世に