毛皮

シベリアや父祖は毛皮の裡に棲む

毛皮

毛皮着て弧状列島南下せり

切干し

切干しの冷めて今宵のなれの果て

神無月

今日離合明日集散神無月

閒石忌

たましいのひも垂れている閒石忌

冬木の芽

泣き笑い憂き目あきらめ冬木の芽

冬木の芽

お別れはいつからいつまで冬木の芽

小春日

小春日のひとりも一人でない心地

芭蕉忌

芭蕉忌や捨つべきものに囲まれて

冬の暮

この国の行く末も末冬の暮

凩

凩や夜はさびしい駅で待つ

木枯し

木枯しのふたり最後の坂下る

小雪

小雪の雲ゆき人には隠しごと

量子力学

生きている貴女と死んでる私が重なる素敵な量子力学

焼いも

焼いもをそんなに品よく食べるなよ

夜話

夜話のそれでそれから寝息かな

蕎麦湯

沈黙に濃淡ありて蕎麦湯飲む

木の葉髪

人生のたかがされども木の葉髪

水鳥

水鳥や我ら我らの水に浮く

暮早し

暮早し待てば女の心地して

小さな憂欝

ささやかではあるが確かに日々感じる幸せにも似た小さな憂欝

毛糸編む

毛糸編む女は言葉を編むやうに

染色体

性懲りもなく男といふ陳腐なる比喩繰り返へされてやがて消えゆく

父の顔

父の顔その父の顔とどこまでも遡つてもただ父の顔

柳枯る

累々と男の遺伝子柳枯る

焼き鳥

焼き鳥の男女しだいに甘く噛み

帰り花

帰りたい風景帰れぬ帰り花

毛布

帰らざる日々を毛布と畳みおく

シニア

若者がシニアと平板アクセントでいふときどうしても「死にや」と聞こゆ

立ち食ひ立ち飲み

立食ひも立飲みもすつかり女子の手におちて残るは立しよんのみか

縄跳び

縄跳びの子らや重さの憑く日まで

教育評論家

聞きにくや賢しらをする教育の評論家ただ共感と唱ふ

星の苦しみ

星死ぬるときの苦しみ如何ならんあるいは星空苦悶に満つや

虫たゆ

行きずりや星のごとくに虫たゆる

酉の市

甘き香も昔々の酉の市

立冬

立冬や何のか分からぬ鍵ひとつ

行く秋

行く秋や不在の部屋に椅子二脚

晩菊

晩菊やいつかといふは約束ならず

優先席

疲れたる若者並んで眠りゐる優先席を見れば悲しも

冬隣

表から乾ひて候ふ冬隣

癒し

いやしくもいやしいやしいいやらしいいやはやいやでもいやおうなし

火星

火星より飛び来たるといふこの命いつかふたたび星へと還らん

秋の暮

目が合つてまなざし消えず秋の暮

秋の空

緩やかや光るレールに秋の空

秋思

角曲がり出合ひがしらに秋思かな

やや寒し

やや寒し暫く夢見の蹠（あうら）にて