2011年10月14日金曜日

死者の国

おなじく肉の塊 我といふ器官黙せばそは死者の国

2011年10月10日月曜日

デジャヴェキュ

想起即事象といふか事象即想起といふかデジャヴュ デジャヴェキュ

2011年10月4日火曜日

エントロピーの大河

老いて死ぬエントロピーの大河なれど川面を風と遡らんか

2011年10月3日月曜日

夢の間の逢瀬

眠りても忘れぬわれの夢の間の逢瀬は昔の刻(とき)にやあらん

2011年10月2日日曜日

あぶくの膜

たとふるに三千世界をつつみ覆ふあぶくの膜の裡に吾が生く

2011年9月22日木曜日

愛撫のごとく

弓なりの島をうづまく雲が覆ひ愛撫のごとくまさぐりて過ぐ

2011年9月7日水曜日

崩れし月影

さはさはと朝風通ふきりぎしに崩れし月影見し夜をしのふ

おやすみなさい

ながながし秋の夜長に酔ひ飽きてさても往かなや うつろひの国

2011年8月28日日曜日

鬼怒川

名にし負はば鬼の怒りに触るるがに骨あひ砕く悲しびをぞ欲る

廃業ホテル

あかあかと川辺の湯殿はかがよひて黒々まむかふ廃業ホテル

2011年8月26日金曜日

母の人生

親兄弟夫子どもら身をつくし八十路の母の人生 知らに

母の脚

呆けしや我が子もわかたぬ母人の細りし御脚をかかふる 重さ

2011年6月26日日曜日

滅びの道

まほろばや朱に染みたる夕空の滅びの道をひたゆく 国かも

2011年5月12日木曜日

面影のるも

いにしへもかくてやあらむしくしくに染みる心に面影のるも

2011年5月9日月曜日

みずきの森

水茎のみずきの森を歩むなへ君のこゑかと夢に聞きしを

2011年5月4日水曜日

ある死

人ひとり失すとふ人々吉事(よごと)とてここだも騒く異(け)に見えずやも

2011年4月30日土曜日

春の嵐

春疾風(はやち)吹きてほつえの狂ふがに恋ふる日ありき痴(をこ)とは思(も)へど

今の我

あまたある我のひとつそ今の我 過ぎしをかこつ我とはわびしも

若葉

たをやかにあるは難しも生ひいづる若葉もここだく虫ども食らふ

2011年4月24日日曜日

余震

昨日今日なほもはつかになゐふれて人の心もけに揺るぐがに

ハリギリの若葉

はりぎりの柔ら若葉に触るなへに思ほゆるかもながはしき手を

2011年4月19日火曜日

夜半の雨風

夜は荒き雨風吹きけむ咲きそむる花も散れよと心倦む日は

2011年4月18日月曜日

桜時

桜時過ぎさり堰の切るるごといやつぎつぎに花咲き出づも

うつつなく

うつつなく今年の桜見過ぐしてわびつつあれば春たけけらし

2011年4月15日金曜日

桜の花

桜花かがよひ散りゆくこの春の思ひのゆくへたれか知るべき

2011年4月14日木曜日

山吹の花

山吹の咲きよそひたる花みれば実ならぬ恋ともおぼゆる春辺

2011年4月12日火曜日

菫の花

春野辺にはつかに咲けるつぼ菫わが恋ふらくは人知れずやも

2011年4月11日月曜日

木々の芽吹き

森ゆけば木々の芽吹きの柔らかに淡くあをめるあが恋もかく

2011年4月10日日曜日

ジャズの調べ

外国(とつくに)の楽の調べもそらにのみ聞こゆ汝の声あやに恋ひしも

面影

面影に思ひみだれて惑ひ寝の醒むればうつつの空かすみけり

2011年4月9日土曜日

かなしみの声

雨風にはやも散りかふ桜花かなしみの声 日の本に充つも

今年の桜

むらぎもの心いたみてなほ思(も)へばことしの桜はや散りそめぬ