寺田寅彦忌

天災は忘れちやならん寅彦忌

１２月３１日

大晦日

紅白や幼いころから隣部屋

紅白や世間虚仮と誰かいふ

片耳に警鐘遠のく大晦日

大年やあくがれ歩きの頃なども

年の暮

大家族競つて騒ぐ年の暮

冬銀河

異邦人名前つぶやく冬銀河

冬銀河地に棲む者に常夜灯

沖合に蒸気船の灯冬銀河

悲しみは気づかぬ喪失冬銀河

枯野原

旅人の枯野出づれば高速道

愛想も礼儀も消えて枯野原

人の世も枯野にもどる幾千年

聖夜

電飾の家ひつそりと聖夜かな

居留地の中にぎはしき聖夜かな

枯蟷螂

敵に背を見せたことなし枯蟷螂

市ヶ尾

冬の日や階段長き住宅街

冬の日や旧道残る平行路

いづこにも名なき稲荷社花八ツ手

うたう坂

うたう坂下れば日残る冬至かな

進藤英太郎忌

おやじ太鼓途絶えて進藤英太郎忌

岸田今日子忌

12月17日

ムーミンを脱いだら岸田今日子の忌

冬牡丹

十年はまだ胸のうち冬牡丹

義士の日

義士の日や義子も義姉も義歯技師も

切通の土手

切通の土手の枯茎直（すぐ）に立ち朝日浴びたり通過の駅に

捨てられし蜜柑

今朝もまだ捨てられし蜜柑道にあり紙袋より二つ三つ出でて

田河水泡忌

のらくろの駆け足号令水泡忌

千石剛賢忌

ホンモノもおっちゃん？千石剛賢（たけよし）忌

山本七平忌

みんなの中の日本軍七平忌

玉川鉄橋

窓ガラスすつかり曇りて手で拭ふ玉川鉄橋けふの富士見ゆ

消防車

絵本見て仕事になるまで消防車

裏横浜

今年最後の満月の下酔ひ酔ひて帷子川過ぐ男女三人（みたり）で

裏横浜などといふ地を教へられビニール簾の中で酒飲む

大雪

大雪やファド聴きながら海へゆく

崖下の駅

崖下なる駅に各停留まりて冬光の影となり人憩ふ

墓地下

墓地下に昔川あり枇杷の花

冬日向

冬日向歌人の暮らす養鶏場

ザビエル忌

血液型RH－だったかもザビエル忌

足下の流れ

いましがた雨ふりそめて朝の駅火花散らせて電車は過ぎぬ

歩きゆく足下はいかなる流れなるか荒ぶる気配すでになくて