春の嵐

春疾風（はやち）吹きてほつえの狂ふがに恋ふる日ありき痴（をこ）とは思（も）へど

今の我

あまたある我のひとつそ今の我　過ぎしをかこつ我とはわびしも

若葉

たをやかにあるは難しも生ひいづる若葉もここだく虫ども食らふ

余震

昨日今日なほもはつかになゐふれて人の心もけに揺るぐがに

ハリギリの若葉

はりぎりの柔ら若葉に触るなへに思ほゆるかもながはしき手を

夜半の雨風

夜は荒き雨風吹きけむ咲きそむる花も散れよと心倦む日は

桜時

桜時過ぎさり堰の切るるごといやつぎつぎに花咲き出づも

うつつなく

うつつなく今年の桜見過ぐしてわびつつあれば春たけけらし

桜の花

桜花かがよひ散りゆくこの春の思ひのゆくへたれか知るべき

山吹の花

山吹の咲きよそひたる花みれば実ならぬ恋ともおぼゆる春辺

菫の花

春野辺にはつかに咲けるつぼ菫わが恋ふらくは人知れずやも

木々の芽吹き

森ゆけば木々の芽吹きの柔らかに淡くあをめるあが恋もかく

ジャズの調べ

外国（とつくに）の楽の調べもそらにのみ聞こゆ汝の声あやに恋ひしも

面影

面影に思ひみだれて惑ひ寝の醒むればうつつの空かすみけり

かなしみの声

雨風にはやも散りかふ桜花かなしみの声　日の本に充つも

今年の桜

むらぎもの心いたみてなほ思（も）へばことしの桜はや散りそめぬ