2012年8月31日金曜日

小指の指輪

退職の後に会ひたる男性に小指の指輪のいはく問はれき

2012年8月26日日曜日

しばし浮かべる

船底に穴あき持ち物みな棄ててしばし浮かべるごとく、母臥す

2012年8月24日金曜日

家への道

家への道みな閉ざされて泣きまどふ己にあひて夢よりさめぬ

2012年8月23日木曜日

川の流れ

川に立つ足首さらりと水流る流るるものは若きにまどふ

2012年8月22日水曜日

死せる蝉

捨てられし玩具のごとく死せる蝉 もつたいないなあまだつかへさう

2012年8月21日火曜日

子の行く末

子の行く末心配ですといふ母の心配の行く末心配せずや

2012年8月20日月曜日

顔写真

新旧の運転免許の顔写真 五齢といふことあるやもしれぬ

視力検査

そのたびに「よく見てください」と直されて老人やうやく視力検査了ふ

免許更新

五年目の免許更新めぐり来ぬ、不作為こそが優良たると

2012年8月17日金曜日

きそふとには

きそふとにはなけれど若者あとより来(き)、われより先に用たして去(い)ぬ

死にゆく蝉

腹みせて死にゆく蝉も死にし蝉も、むらがる蟻にはちがひはなくに

採血

採血のときには眼(まなこ)そらさずに針先をみる 死にもかくと

谷保

谷保といふ駅名告ぐるに運転士やっほと軽く促音いれたり

2012年8月16日木曜日

神の眼

ゑひさわぐときにし泣きふす人ありて地上あまねくみるこそ、神か

2012年8月15日水曜日

妬心

妬心てふ世にも不思議な感情に心もゆだねてただ泣くわれかも

森の人

わが胸を力強くも打つ人にさながらわれら森の人と化す


2012年8月13日月曜日

みづすまし

そのかげのつつと動けば水面(みなも)にはみづすまし夏の光をゆけり

2012年8月12日日曜日

王さまと家来たち

王さまと家来たちとがさいごには大わらひして、この世も果てなん

トニー滝谷

直線と直線交はりあひ離(か)るるごとき孤独のトニー滝谷


2012年8月11日土曜日

黒蝶

ダフニスとクロエのやうな恋などもあらんか黒蝶むつみて飛べり

2012年8月10日金曜日

深大寺のむくろじ

深大寺のむくろんじの実なま青きままに落ちたる黙(もだ)して執りぬ

多摩川のひぐらし

いにしへの多摩川の底へ森々にしらべを鳴きつぐひぐらしのこゑ

野川のかはせみ

南海のコバルト色の羽ふりてかはせみ一羽野川に舞ふも


2012年8月9日木曜日

夏つばめ

悲喜などのあるとは知らねど夏つばめ白き腹見せ飛びまはりたる

榎の葉守

木陰から木陰へ移ればそれぞれに葉守のごとき蝉ゐて鳴きぬ

榎とつばくろ

榎からふいにつばくろとび出でて我を巡らせ円弧描けり

2012年8月8日水曜日

怨憎会苦

ひとたびは睦みしゆゑに怨憎会の苦もまた深きや問へども見ぬは

卓球女子

日本の卓球女子の勝ちしぐさその握る手の乙女めきたる


2012年8月7日火曜日

新しい町

忌々しい町めと毒づく越してきてゆく道ゆく道みなゆきどまり

夕焼

この町で初めて出逢ふ夕焼に昔の少年寄り添ひ涙す

2012年8月6日月曜日

少年老いやすく

ほんたうの家族探して家出せし少年老いやすく家族に逐はる

2012年8月4日土曜日

脱兎のごとく

わが横を脱兎のごとく自転車で浴衣の女子が駆け抜く闇へ


2012年8月2日木曜日

預言者の眼

北京にてロンドン視えしと預言者の眼もちたる競技者云へり

転送未了

目醒むればここはどこかと問ふなへに転送未了といふ声すなり

ギネス青年

ギネス飲むためにダブリンまで行きし青年ふだんは梅酒を飲むと

2012年8月1日水曜日

東京の原野

生(き)のままの原野を見たし東京の地膚を掩ふ諸々剥ぎて

すつぴん

何千年へなばや街をゆく夏のはなやぐ彼女らすつぴんとなる

クレーン

夏雲の流るとみえてよく見れば聳ゆるクレーンゆるかに動けり

死期

死期といふはかくなるものか夏午後のあらがひがたきこの大睡魔

うなさるる夢

うなさるる夢をまた見き思へらくいつたい誰がうなしてるのかと